長くなってしまいましたが、よろしければお付き合いください。
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「完全組織」という言葉があります。
例えばこれは、綾織りの組織図。
図1:組織図 |
よくよく見れば、赤で囲んだ図が縦横ともに繰り返されています。だから、ここでは赤で囲まれた部分が繰り返しの最小単位となり、それを「完全組織」というのだそう。
だから、図1の組織の「完全組織図」もしくは「完全意匠図」(「組織図」と「意匠図」は同じ意味で使われる)は、こんな図になります。
図2:完全組織図/完全意匠図(用法1) |
でも一方で、「完全組織図」「完全意匠図」を、別な意味で使っている場合もあります。その使い方だと、「完全組織図」「完全意匠図」は、こんな図。
図3:完全組織図/完全意匠図(用法2) |
様々な描き方がある中で、ここでは、フィンランドで使われている描き方を使っています。
つまり、タイアップの黒マスは経糸が上になるようにセットすることを表し、組織図の黒マスは経糸を表しています。
組織図、タイアップ図、綜絖通し順、踏み順の図が、すべて一つのまとまりとして描かれている図が、「完全組織図」「完全意匠図」です。
同じ言葉なのに、全く違う意味になるんですよね。
(ここでは便宜上、前者を「用法1」、後者を「用法2」として話を進めます)
2つの使い方があるのね、ぐらいにスルーすればいいのかもしれないけれど、なんだか気になる。
で、気になりだしたら止まらなくて、自分なりになんだかんだと考えたら、用法2に疑問を持ち始めてしまって…
その理由ですが
まず、織りの組織という狭い領域で、同じ言葉を全く違う意味で使うのってあまりよくないんじゃないか、ということ。
じゃあ、どっちの用法を優先させるべきか?と考えたら…
たぶん古いのは用法1。だから、それが死語になっていない限り、それを優先すべきじゃないかと思うんですが、どうでしょう?
用法1は20世紀初頭の本にもあります。でも、同時代の本で、織り方図(踏み順、綜絖通し順、タイアップの図をまとめてそう呼ぶことにします)と組織図が一体になっている図自体を見かけることがほとんど無い気がするのですよ。だから、そんな図の名称も特になかったんじゃないかと。それで、用法1のほうが古いと思うのです。あくまで憶測ですけど。
さらに考えてしまったのが、織り方図を組織図に添えることが、組織図をより「完全」にするのか?ということなんです。
例えば
4枚の綾織りは図3のように描かれることが多いけれど、実際に織るときは、右足と左足を交互に踏んだほうが織りやすそうです。
そこで、踏み順をそんなふうに変えれば、タイアップ図も多少変わって、全体の図はこうなります。
図4 |
あるいは、綜絖通し順を変えることもあり得ます(なんでもこの通し順は、密な経糸で平織を織るときに使われるとか)。そうすると、また少し図が変わります。
図5 |
1本の踏み木につき1枚の綜絖だけをタイアップして使っている場合もあり、そうなるとまた図が変わる…
図6 |
組織図と織り方図がそろって「完全」という考え自体は分かるのです。でも、織り方図を添えることで「組織図」が「完全」になるのか?というと、それはちょっと違うんじゃないかと思うのです。
「組織図」を「完全」にするというよりは、上記の例のように、数多くある織り方の中から一つの織り方図を組織図に添えたものでしかない、と思ってしまうのです。
極端な話、機を使わずに拾いながら織るのであれば、図1でも十分「完全」な組織図でしょうし。
ところで、白マス・黒マスの約束事が一定であっても、組織図からは上記のように複数の織り方図が描けますが、約束事が一定のとき、織り方図からは一つの組織図しか書けません。
そう考えると、「織り方図」に「組織図」を添えることで「完全」な図になる、というほうが、くうっけりには感覚的に納得しやすい。
だから、用法2の意味で「完全○○」という言い方をするのであれば、「完全織り方図」という言い方のほうがしっくりくる気がするんです。
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フィンランドに来てから織を始めたので、日本の織のことはよく知らず、用語なども、日本語より先にフィンランド語で覚えました。
この頃は日本語もだいぶ覚えてきたけれど、それでもブログを書くときに、「あれ?これって日本語でなんていうんだろ?」と、本を見たり検索したりすることも多いんです。(「用語集」のページを作り始めた理由もそこのとこ)
そんな中で「完全組織図」「完全意匠図」の使い方がどうしても気になってしまったので、記事にしました。用法2がしっくりこないというのは、あくまで個人的な感覚です。ここで、そのわけを自分なりに考えてみたかったんです。
これだけ書き連ねてなんですが、用法2がよくないというつもりは全くありません。言葉の意味も用法も、時代や場によって変わっていくものですから。それに、ブログを書くときぐらいしか日本語を使っていないくうっけりの言葉の感覚なんて、あんまりあてにはできませんしね。…とはいっても、やっぱり気になるというのが本音です (^_^;)
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