手織り・染色・手紡ぎ等々、手仕事の記録です。フィンランドでのものづくりについても紹介しています。フィンランド発信。

ヒンメリ(フィンランドのクリスマスに飾られる伝統のわら細工)づくりの名人

クリスマスも近づいてきているということで、今回はフィンランドでクリスマスに飾られる「ヒンメリ」の話です。

ヒンメリは麦わらでつくられるフィンランドの伝統の飾り。ヒンメリ himmeli という名称自体は、スウェーデン語とかドイツ語で「空・天」を意味する「himmel」からきているのだとか。そして、その名前の由来からも想像できる通り、ヒンメリは天井に飾られます。

Himmeli
(ヒンメリ)
撮影:Hyvönen Markku, 1990年
画像元: himmeli | Museovirasto - Musketti | Finna.fi
ライセンス:  CC BY 4.0  

基本のパーツの形は共通していることが多いですが、全体の形・大きさに特に決まりはないようです。だから、比較的単純なものもあれば複雑なものもあります。

ヒンメリはもともと、豊作を願って作られたもので、クリスマスだけじゃなくて、そのあとずっと夏至祭まで飾られていたんだとか。今は完全にクリスマスの装飾品化してるけど。


さて、フィンランド国営放送のサイトにあった、ヒンメリ名人さんの映像を紹介します。1975年に放映されたもの。ここで紹介されているのは、Hilma Sievä(ヒルマ・シエヴァ)さん(撮影当時75歳)と彼女の作るヒンメリです。

伝統的なヒンメリって、作りあげてしまうと、それより小さな箱には収納できないんですよね。そこで Hilma さんは、飾った時には大きいけれど収納するときには体積が小さくなる…そんなヒンメリを創り上げたのです。そして、その技術・デザインが認められて、彼女は1973年に国から表彰されました。

動画の長さは16分ほど。語りがすべてフィンランド語なので長すぎると感じるかも。その場合には、10分40秒、そして15分50秒のあたりだけでもご覧になってみてください。彼女が創りあげたヒンメリを見ることができます。


この動画を初めて見たとき、Hilma さんの話に感銘を受けました。訳ではうまく伝えられないところも多いのだけれど、概要だけでも知っていただきたく、つたないながら抄訳を書いておきます。かなり省略・意訳している部分もあります。ご了承ください。尚、カッコ内(*…)はくうっけりが加えた注釈です。

*****

この仕事を60歳の時に始めました。年金が少なかったので、稼ぐ必要があったのです。

今、75歳です。まだ仕事は十分にあります。

13歳の時、教会学校で天井から吊り下げられて絶え間なく揺れるものに目がいきました。(*それが Hilma さんが初めて見たヒンメリだったのですね)

そのあと、葦を摘んできて、それでヒンメリを作ろうとしました。(*本来は麦わらで作るものだけれど、農家じゃないから藁が家になかったのかもしれません。葦は、どうしてもヒンメリが作ってみたかった Hilma さんが考えた、藁の代替え品だったのでしょう。)

葦の茎には穴が開いていたけれど、そこに糸がなかなか通りません。口で吸って糸を通そうとしました。一日中を吸って糸を通そうとしたものだから、体に空気がいっぱい入ってしまいました。母に「私、飛んじゃうよ」といったものです。母は私の様子を見に来て、ヒンメリ作りはその日で終わりになりました。でも、そのあとも内緒でヒンメリ作りを続けました。ヒンメリに興味があったのです。

私が子供だった頃、裕福な家の子どもたちしか学校には通いませんでした。私たちは通っていません。

私が生まれたのは、職人の家。5人兄弟でした。学校までの道のりも長く、貧しい家では、冬に凍えずに学校までいけるような服を用意できないと言われていたものです。私も、教会の堅信礼の為の学校意外、学校には通いませんでした。

堅信礼(*15歳対象の儀式)のあと稼ぎに出ました。いくつかの家で奉公しました。そして毎年、クリスマスにはヒンメリを作って飾りました。(*この時はもう、葦でヒンメリを作ることなく、ちゃんと麦わらで作っていたと思われます)

1933年に結婚しました。当時は物も不足しとても大変な時代でした。一人で生きるより二人のほうが生きやすいと考えたのです。10年の結婚生活の後、1944年に夫が亡くなりました。

そのあと働きに出た薪工場で、丸のこで左手の指を切断してしまいました。薪工場ほど危なくないだろうと考えて、次に勤め始めた金属工場では、右手の指を切断してしまいました。

その後再婚し、主婦となりました。ヒンメリを作る時間もできました。展示会も出品し、2年目の出品の時には賞ももらいました。

そのころは、普通のヒンメリを作っていましたが、それだと移動の時にとても大きな箱が必要です。そこで、小さくできるヒンメリを作ることができないかと考えました。

数学ができる人に、設計を頼んでみたりもしました。でもうまくいかず、結局は自分で何度も試行錯誤することで、やっと創りあげることができました。

これは精密な作業です。例えば藁を切るとき、半ミリずれてもだめです。それだけのずれでも形がゆがんでしまいます。こんなヒンメリ(*8分後の映像にあるヒンメリ)に約2400本の麦わら部品が必要です。ここには11種の違った長さの部品が使われています。短いのが5㎜、一番長いのが5.5㎝。部品を必要な長さに切って準備するのにも時間がかかりますが、それを含めず組み立てるだけで30時間かかります。

1960年に引っ越しました。その頃月々もらっていた年金では生活できなかったので、収入を得るためにヒンメリ作りを始めたのです。そしてひたすらヒンメリを作りました。

お店に持っていったのですが、あるお店では「他の人が真似して作れないようなヒンメリは買い取れない」といわれました。でもそのあと、別の小さなお店にヒンメリを持っていったら、そこではとても気に入ってくれました。そしてそこの店が販売を引き受け、タンペレや、いくつかは国外にも売られていきました。

これらの小さくたたむことのできるヒンメリで、国から表彰をうけました。とてもうれしかったです。賞金は4000マルク(*現在のお金の価値に換算して日本円にすると60万円近く)で、私としてはとても大金です。何年も作り続けてそれが認められたというのは、言葉にできないぐらいの喜びでした。

今まで手に入れることのできなかったものを手に入れることができます。すぐに、眼鏡を買いました。そして、手がよく動かないぐらいに肩こりもひどかったので、それを直しに外国へ行きました。

5年前にここに引っ越してきました。ここほどいいところはありません。

今の収入はまあまあです。年金が十分に入りますから、それだけでも生活ができます。でも、自分の精神衛生のためにもヒンメリを作っています。もちろん売ればお金も入りますし。

新しいヒンメリが完成するのは楽しいものです。お金にならないとしても、ヒンメリは作るでしょう。ほとんど趣味のようなもので、作らずにはいられませんから。

この、小さくたためるヒンメリを創りだすのには、とてもたくさんの時間と根気と手間がかかりました。この仕事を続けてくれる人が自分にはいないので、これがこのまま途絶えてしまうのがさびしいです。

*****

日本でもヒンメリの作り方の本が出版されているのですね。アマゾンで見つけた本の表紙を、出版年が古い順に並べてみました。(表紙からアマゾンの詳細ページにとびます)

   

今年出版の本が2冊もあるのにはびっくり。

ところで、近年はヒンメリの材料に麦わら以外の物を使うことも多々あるようです。
農業がまだ主要な産業だった頃には多くの家にあったであろう麦わら。でも今はそれが手に入りにくい。一方で、今の世の中にはいろんな素材があります。新しい素材を使えば今までとはまた一味もふた味も違ったヒンメリができる。光るヒンメリ(valohimmeli - Google 検索  )がそのいい例でしょう。

伝統を受け継ぎながらも新しいものを取り入れていく。そうやって世の中が少しずつ変わっていくのでしょうね。悪いことではないけれど、なんだか少し侘しくもあります。今の時代、Hilma さんほどのヒンメリづくりの名人っているのかな…?

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10 件のコメント:

Takemomo さんのコメント...

わら細工のようなものかな?
豊穣を祈るものだったり、しめ縄だったり。
神様や精霊の依代なのかな?
伝統的なものって、きれいなものが多いんですね。

Akitaでは毎年、暮れ近くになると風物詩として藁細工づくりがニュースで取り上げられます。
後継者不足も同じでしょうか…。

Kuukkeli (くうっけり) さんのコメント...

穀物の豊作を願うのに、その一部=藁 を使うというのは、どの国でも自然な発想だったのかも。
穀物を育てれば自然に手に入る素材だったでしょうし。

後継者不足はよく言われることだけれど、今どきは素材不足もあるんじゃないかなあ。
今どき藁なんてあんまりないじゃないですか。
トラクターで穀物収穫するときは、藁を切り刻んじゃうから。

時代はどんどん変わっていくんですよね。さびしいけど…

あい さんのコメント...

こんにちは。お久しぶりです。先月たまたまヒンメリ作りの講習に参加して
はまってしまいました。
いろいろネットで調べていたらくっけりさんのブログにたどり着きました。
習ったのは8面体の基本でしたが、ヒンメリってさまざまな形があるんですね。
それにくうっけりさんが載せていた写真のもすごくきれい!

糸一本で一筆書きのように藁を通していき、立体にするのは
先を読む力や計画性の訓練になりそうだと思い、色々な形をいくつも作ってしまっているのですが
ちまちま作っていると織る時間が無くなってしまいそうなのでそろそろブームをおしまいにしようかと思っています。
が、寝る前に一個作るのがやめられなさそうです~。

Kuukkeli (くうっけり) さんのコメント...

おひさしぶりです。コメントありがとうございます。

そうですか、はまりましたか。あいさんらしい!(って、ブログでのあいさんイメージしかないのですけれど)
はまるときりがないですよね、こういう手仕事って。
いくつも作られたとのこと。きっとそれらをつなげたら、とても立派なヒンメリになるでしょうね。
ぜひ拝見したい!!!

わたいとや さんのコメント...

はじめまして、ツイッターでフォローさせていただいております、わたいとやと申します。

実はずいぶん前からヒンメリになぜか惹かれていて、それがこちらの記事を読んでから更にやってみたくて仕方なかったのですが、引越しやら何やらでなかなか手が付けられず、ようやく図書館で本を一冊借りて読み終わったところです(前置き長くて失礼)。

そこで、ひとつ疑問がありまして、とても図々しいのは承知しているのですが、もしご存知でしたら教えていただけますでしょうか。藁を割れにくくするため、昔は何か使っていたのか否か、今はどうなのかを知りたいのです。

今回借りた本では木工用ボンドを使うようにと書いてありました。私は最終的には畑に還したいので、デンプン糊で代用と考えたのですが、そもそも本場で昔はどうしていたのか、今もそちらで木工用ボンドのようなものを使用するものなのか等、もしご存知でしたら、お時間のある時に、簡単にでもお聞かせいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。


綿畑でライ麦も育てているので、ぜひ自家製で作って、飾り終えたら畑に還したいのですが、木工用ボンドを使うと書いてあって

わたいとや さんのコメント...

すいません…。最後の二行は削除し忘れてたものです。無視してください(汗)

Kuukkeli (くうっけり) さんのコメント...

残念ながら、実は私自身はヒンメリを作ったこともなく、あまり知識もないのです。

とりあえず、インターネット上でざっと調べてみました。割れにくくするためには作業の前にぬるま湯につけておくというのが一般的なようです。ボンドや糊等を加えるという記述には、今のところ出会っていません。

ライ麦の収穫時期が、割れにくいかどうかに関係するという話も。ヒンメリ用のライ麦は、フィンランドでは夏至の頃(花が咲いた頃)収穫すると割れにくいという説があるようです。とはいうものの、8月に収穫する、という方もいるので、実際のところはよくわかりません。

すみません、今回お伝えできるのはこれぐらいです。あとでもう少し調べてみますね。

わたいとや さんのコメント...

ありがとうございます。十分です。お時間とらせてしまってすいません。

藁飾りを長保ちさせるために、昔の人がそれほど手間をかけたのか、毎年自家用で作り替えるものでしょうし、移動させるわけでもないのだから、やはり濡らすだけだったような気がします…。

収穫時期にもよるかも、という説は興味深いです。日本とは湿度がずいぶん違いそうで、いつがいいのかはやっぱりわからないですけど^^

私自身がまだ本を読んだだけで作ったことがないので、作っている最中からそんなに割れるものなのか、糊のようなものが必要なのか、作ってみてからまた考えてみます。

本当にありがとうございました!

Kuukkeli (くうっけり) さんのコメント...

送ってから気づくこと、よくありますよね。
私もときおりやらかします💦

Kuukkeli (くうっけり) さんのコメント...

そうですね、やってみて気づくこともいろいろあるでしょうから。

今回はたいした情報をお伝えできなかったけれど、また何かあったらどうぞご遠慮なく声をかけてください。😊😊😊

@tapionokuni