前回の記事で触れた kuvikas と呼ばれる組織について、ちょっと詳しく書いてみたいと思います。
まず kuvikas という名前について。
古い教本では、この名称は組織名としては使われていないのですが、実は、この単語自体は使われていました。組織名としてではなく「柄(紋・模様)のある」といったような意味の形容詞として。
フィンランド語に、「絵」を意味する「kuva」という言葉があります。「kuvikas」はそこから派生した言葉かと思われます。
いずれにしても、この、もともとは形容詞だった言葉が、柄を織りだす組織の一つを表す名称として狭義に使われるようになったのでしょう。
「kuvikas」の言葉の意味をくんで無理矢理日本語に訳せば、「紋織り」といえましょうか。…これら2つの言葉が指すものは、組織としては同じとは必ずしも言えないようですが、言葉の背景にある意図には、共通性がある気がします。
次に、kuvikas がどんな組織かという話です。
構造的には、浮き織りとかオーバーショットとかの仲間といえます。これらの共通点は、地を織りだす緯糸(地緯)と模様を織りだす緯糸(絵緯)の2種の緯糸を使うこと。
オーバーショットはちょっと特殊なので置いておくことにして、浮き織りと kuvikas の違いを見ていくことにします。
浮き織りです。アップしすぎて逆に分かりにくいかな…
白い平織の地(筬目に2本ずつ経糸を通して織ったものらしく、2本の経糸ごとにちょっと空間があるりますが)に、カラーの2本どり糸で模様が織り込まれています。
このような浮き織りでもいろいろなデザインが楽しめると思います。でも、小さな模様ならいいけれど、大きな模様(一つの模様の幅が広いもの)だと、経糸の上に渡る絵緯の長さが(浮き)が長くなりすぎるのが困りもの。そういう意味では、織りだせる模様に制限があるともいえます。
でも、絵緯のところどころを経糸で留めるようにすれば、どんなに幅が広い模様でも―布の端から端まで絵緯で覆うような柄でさえも―問題なく織りだせる…そしてそれが kuvikas と言われる組織です。
上の写真の布では、茶色い糸が地を織りだしてます。そして黄色と黄緑の2本どりが絵緯。絵緯がみっちり詰まっているので見にくいとは思いますが、茶色の経糸と緯糸のみに注目すると、それらは平織になっているのがわかります。そして、経糸の一部は、地を織りだすだけでなく、同時に絵緯も留めています。
タイアップ等については、以前記事にしたことがあります。(関連記事:こんなタイアップ)
でも、kuvikasって、模様自体ももちろんのこと、組織的にもいろいろなパターンが考えられるんです。
まず、地の組織です。
一般には平織ですが、別に平織で織らなければならないということはありません。必要であれば地の組織を綾織りにすることだって可能です。
次に、絵緯を留める間隔です。
写真にある kuvikas では、比較的せまい間隔で絵緯を留めていますが、もっと広い間隔で留めることもできます。間隔を変えることで、表面の雰囲気もかなり変わるんじゃないかと思います。
そして、地緯と絵緯の割合。
例えば、1本の地緯に対して1本の絵緯というのもあり得るし、1本の地緯に対して2本の絵緯というのもあり得ます。
さらに、絵緯の留め方。
絵緯をいつも同じ場所で留めるとか(ただしこのパターンは、フィンランドの教本では触れられていないことが多い)、
絵緯を平織的に留めるとか(多分これが一番多いパターン)、
あるいは、綾織り的に絵緯を留めるなんていうのもあり。
うまくまとめられなくて長くなってしまいました。
織物の組織って面白いと思うのですが、説明するのって難しい…
散歩にて
14 時間前
2 件のコメント:
こんにちは。遅くなりすみません。
日本国内の本では、経糸で柄表現されていたり、地綜絖が2枚でなく3枚?だったりと、疑問に感じていたのですが、kuvikasの名前の由来を読んで「なるほど」と納得できました。ありがとうございます。
アメリカのSummer-and-Winter Weaveは、写真だけではわかりにくいのですが、
「絵緯を平織的に留めるとか」というタイプのようです。
S-and-Wでは、地綜絖の枚数と通し方の基本が決まっていますので、先日のお話のようにフィンランドのkuvikasのほうが、広義だとお見受けしました。
kuvikasイコールSummer-and-Winter Weaveというのは、やはり無理がありそうですね。
こんにちは。コメントをありがとうございます。
凝った話になってしまったり、うまく説明できなかったり…そんな記事ですが、少しでもお役にたてたのであれば、こんなうれしいことはありません。励みになります。
考えてみれば、単純な単語でさえも、日本語で意味することと、それを例えば英語に言い換えたときの意味合いとが、必ずしもイコールとは限らないですものね。日本語の世界だけを考えても、ある地方のある方言が、共通語にしてしまうと意味が微妙に違ってしまったり…
そんなことを考えると、織り用語の意味合いにずれがあるということも自然なことに思えてきます。
kuvikasをS&Wと英訳することもあるようなのですが、英語圏でも kuvias という名称をそのまま使っている場合もあるので…やはり一般的にも、必ずしもイコールとは考えられていないということなのでしょう。
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