手織り・染色・手紡ぎ等々、手仕事の記録です。フィンランドでのものづくりについても紹介しています。フィンランド発信。

《VIPUKANGASPUUT》カウンターマーチ(天秤式)の手織り機

北欧、特にフィンランドの機として日本で一般に知られているのは、カウンターマーチとか水平天秤式と言われるタイプの機でしょう。

フィンランド語では vipukanngaspuut っていいます。vipu と kangaspuut の複合語です。vipu はレバー(lever・てこ)のこと、kangaspuut は機のこと( 《KANGASPUUT》フィンランドの織機 - 手仕事@タピオの国) 。てこ装置で動かす機だからこう呼ばれるのでしょうね。長い単語なので一部省略して vipupuut っていわれることも多いです。

てこ装置というのは、下の写真の右上部分。日本では「天秤」といわれてるものです。

Helvi Kiiski mattoa kutomassa Kurkijoen Särkijärvellä
(クルキヨキのサルキヤルヴィにて ヘルヴィ・キルシがマットを織っているところ)
撮影者・年:Kyytinen Pekka, 1930年代
撮影場所:クルキヨキ サルキヤルヴィ(現ロシア領)
画像元: Helvi Kiiski mattoa kutomassa Kurkijoen Särkijärvellä | Museovirasto - Musketti | Finna.fi
ライセンス: CC BY 4.0

フィンランドにこのタイプの機がやってきたのは、ドイツからです。1890年代初頭に、とある専門学校の学長さんがこのタイプの機をドイツから学校に導入。その後、その学校では機の工場を設け、この新しいタイプの機の生産を始めます。それが、水平天秤式の機がフィンランドに普及するきっかけだったようです。

このタイプの機は、その昔、大統領邸にも置かれていたことがある?!

tasavallan presidentin puoliso, rouva Kaisa Kallio kangaspuiden ääressä Presidentinlinnassa
(大統領邸で機の前に座る、共和国大統領の妻、カイサ・カッリオ夫人)
撮影:Pietinen Aarne, 1938年5月, 大統領邸
画像元: tasavallan presidentin puoliso, rouva Kaisa Kallio kangaspuiden ääressä Presidentinlinnassa | Museovirasto - Musketti | Finna.fi
ライセンス: CC BY 4.0

なにはともあれ、水平天秤式の機は20世紀中に徐々にフィンランド国内に広がりました。今は、学校とかハンドクラフトセンターとかにある機は、おそらくほとんどがこのタイプです。

一方、同じ天秤式でも「垂直天秤式」といわれるタイプの機は、フィンランドではほとんど使われていないと思います。くうっけりが見たことがあるのは1台だけ。普通の機じゃなくてダマスク機でですけど。地の綜絖を動かす部分が垂直天秤でした。確か、ドイツ製だって聞い記憶が。



ついでに蛇足…

インターネット上に公開されている日本の古い本に、似たようなシステムの機が紹介されています。「天秤」の形は違うけれど、機全体の動きは水平天秤式と同じっぽい。このシステムは、この本の中では「唐碓仕掛」と書かれています。ちなみに、「唐碓」は、てこの原理を利用してつく碓らしい(参考: 唐臼・碓(からうす)とは - コトバンク )。

吉田龜壽著『織物組織篇全』(明治36年改訂版)57頁より

インターネット上にあった、ドイツ語で書かれた古い本にも同じような機の絵がありました。ドイツ語が全然わからないので、まずは表紙をそのまま載せておきます。

Heinrich Kinzer著『Technologie de Handweberei』(1899年)表紙

この本の中にあった機の図のひとつ。日本の本にあったものと同じ仕組み?

Heinrich Kinzer著『Technologie de Handweberei』(1899年)53頁より

そして、次のページにあったのがこの図。

Heinrich Kinzer著『Technologie de Handweberei』(1899年)54頁より

綜絖の動きをより安定させるための試みではないかと勝手に想像しています。でも真相は謎。解説がすべてドイツ語なので、何が書かれているのかくうっけりには全然わからないのです。

さらに次のページにあった図。

Heinrich Kinzer著『Technologie de Handweberei』(1899年)55頁より

こうなると、もうほぼ見慣れたかたち。綜絖の安定した動きを求めた結果、今の水平天秤式のかたちに落ち着いたのかな? ドイツ語がわかれば、ある程度の謎は解けるのだろうけれど…

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2 件のコメント:

Takemomo さんのコメント...

天秤?の装置、マリオネットの仕掛けみたいですね(⌒▽⌒)♪

織り機のページを見ていると、天秤式の織り機は垂直天秤か水平天秤か選んでねって書いてありますけど、どっちがどうで何なのかの説明がないんですー(T-T)
きっと分かる人だけでいいのよ、と思っているのかな?

「てこ」の文字を見て「てこさん」のこと?!
って思うのって、ワタシだけじゃないですよね…?

Kuukkeli (くうっけり) さんのコメント...

マリオネット…なるほどそうかも。

機は手軽に買えるものじゃないから、買う前にはそれなりの下調べをするとか、知っている人に相談するだろうというのが前提なのかも?
実際、仕組みを知らないと使いこなせないだろうし。

垂直天秤式についてはほとんど書くつもりはありませんが、水平天秤式の仕組みについてはもう少し詳しく書こうと思っています。参考になるかどうかわからないけれど。

はい、私もつい「てこさん」のことを連想しちゃいました。😄

@tapionokuni