図書館から借りた本です。50年以上前に出版されたもの。図書館でしっかりとした表紙がつけられており、もともとの本の表紙のデザインが見えないのがちょっと残念。
Rukinlapa: käsityöesine ja kihlalahja
著者:Veera Vallinheimo
出版:WSOY, 1967年
著者:Veera Vallinheimo
出版:WSOY, 1967年
書名の意味は『ディスタフ 〜手工芸品・婚約のプレゼント』。ただし、ここでいうディスタフは、紡毛機にとりつける板型のもの(関連記事 フィンランドのディスタフ その2《RUKINLAPA》)。
この本は、フィンランドの板タイプのディスタフを、技法や装飾モチーフ、作られた地域などからの視点で研究し、それをまとめた内容になっています。民俗学の分野になるのかな?
個人的には、技法やモチーフなどについて詳しく書かれた本題の部分よりも、rukinlapa の歴史などが書かれた序章的なところが面白かったです。
本を読んで知ったことをいくつか挙げておきます。(かなり自分流に解釈しているのでご了承ください)
- フィンランドで rukinlapa が作られるようになったのは18世紀前半(紡毛機がフィンランドに伝わったのが18世紀)
- 実用品としての rukinlapa は特に装飾もなく現存しているものもあまりない。現存している装飾的なものは、実用品とは別に作られたもの。
- 農村よりも漁村で装飾的な木工品が作られた(漁では待機時間が多い)。
- rukinlapa は東部から広がったらしい(この板タイプのディスタフは、スウェーデンでは西の沿岸部にしか見られない)。
で、この「東部から広がった」という話から、私なりに納得できたことがあって、とってもスッキリ。あくまで「私なり」なので実際そうなのかどうかはわからないけれど。
どんなことかというと…
インターネットでディスタフ(distaf)を画像検索すると、ヒットするのが殆どが棒状のもの。例えば…
フィンランドでよく見る板タイプのディスタフには、ほとんどお目にかかりません。それが不思議だったのです。
それにはっきり言って、フィンランドの板タイプのディスタフは、他のタイプに比べて使いにくいに違いない。実際今回読んだ本の中でも、rukinlapa より harkki( フィンランドのディスタフ その3《HARKKI》)や tortti( フィンランドのディスタフ その1《TORTTI》)のほうが実用的だと書いてありました。
じゃあ、フィンランドではなんで板タイプのディスタフなのかといえば、ここではかつて kehräpuu( フィンランドのディスタフ その4《KEHRÄPUU》)が使われていたからです、きっと。
紡毛機が使われていないころの中央ヨーロッパの古い絵などに描かれているディスタフは、地面に立てたり腰の紐にさしたりして使うタイプのもの。繊維はディスタフのまわりにぐるっと取り付けてあり、必要に応じてディスタフの向きを自由に変えて(回転させて)使うことができます。
一方、フィンランドで使われていた kehräpuu はL字型で、ベンチなどに置いて、その上に座って使うタイプ。だから、繊維を取り付ける部分の向きを変えたりはできません。繊維を取り付ける部分は板状で、繊維を紡ぎ手側に取り付けて使いました。
ちなみに kehräpuu はロシアでも使われていたみたいです。中央ヨーロッパでは棒状のディスタフ文化で、東部では kehräpuu文化?
中央ヨーロッパで紡毛機に取り付けるディスタフがそれ以前のディスタフと同じ棒状だったように、フィンランドでは紡毛機用のディスタフも kehräpuu と同じ板タイプだったんじゃないかな。…ということは、紡毛機がフィンランドに入ってきたとき、ディスタフは一緒に入ってこなかったということでもありますね。
ディスタフって単純な道具だけれど、それぞれの地域や国で、それぞれの歴史があるのでしょうね。いろんな地域のいろんなディスタフを並べて見ることができたら面白そう…。
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