初版が何年に出版されたのかはわかりません。写真にあるのは第2刷、1928年出版のもの。
かなり年季が入って、カバーがぼろっとしておりますが
当時の主婦向け本のシリーズの中の1つとして出版されたもののようです。ですからこの本は、織りを学ぶ人たちのための教科書ではなくて、家庭で織りをする人たちへのガイドブックというところでしょう。
それでも、組織図の見方やタイアップの仕方、そして織りの組織について一通りきちんと説明されています。教科書として書かれた本との違いは、説明が簡潔なことと、具体的なデザイン・組織が多く描かれていることでしょうか。
この本の内容に関わるメモをいくつか書いておきます。本の主旨そのものとは関係ない話ばかりですが。
Kuvikas
以前、古い本には kuvikas という組織の名称は載っていなかったということを書きました(関連記事:【本】Kankaiden sidokset 〜織りの組織の本とkuvikas〜)。でもあれはちょっと早とちりだったかも。
この本では kuvikas という名称が組織名として使われていました。この本で使われているのに、なぜ同時代の織りの教科書(関連記事:【本】Kankaankudonnan oppikirja 〜織りの教本〜)では使われていなかったんだろう?? 当時は一般的でなかったのか、それとも正式名とはとらえられていなかった?…謎です。
滑車式と天秤式の機
本が書かれた当時は、フィンランドでも滑車式の機が多く使われていた時代かと思います。でも天秤式カウンターマーチもすでに使われていました。この本は、どっちの機も念頭において書かれています。
でも、滑車式の機は当時の人たちにとっては身近だったからでしょうか。天秤式の機のタイアップの仕方は、図入りで丁寧に説明されているのに、滑車式についてはあまり詳しく書かれていません。個人的には、そっちのほうをもっと知りたかったんですが…
滑車式と天秤式について優劣をつけることはしていませんが、タイアップに注目した場合、組織によっては、滑車式の方が断然手間が少ないということは書かれています。
典型的な例が、オーバーショットと4枚綜絖のメガネ織り。これらは同じ綜絖通しで、同じ経糸に続けて織ることが可能。
滑車式のタイアップなら、これら2つの別の組織の布を続けて織ったにしても、(2本のペダルを必要に応じて同時に踏むことにすれば)4本のコードで事足りるけれど、天秤式の機だったら平織に2本のペダル、オーバーショットには+4本、さらにメガネ織りに+4本で、合計10本のペダルが必要、すなわちタイアップには40本のコードが必要だと説明しています。…確かに大きな違いですな。
ダマスク
こんな記述がありました。
”…80~100年ぐらい前、ダマスク織は、今私たちの時代よりもずっと普通に織られていました。さらに同じぐらいの年月が過ぎた頃にはどうなっているのでしょう?……私たちの貴重な民族的財産でもあるダマスク織りの技術が忘れ去られないよう、各人がそれぞれ努力しなければなりません。” (p.62)現代がちょうど、この文章が書かれたころから80~100年ぐらいの年月が過ぎたころになります。
ダマスク織どころか、今はもう必要な布を家で織るということもしないし、そもそも機が家にないことのほうが多いです。著者が期待していた未来とは程遠いですね。
ところで、ここでいう「ダマスク織」は、ダマスク織物と言われて一般に想像される布ほどの複雑な模様のものではなく、ドレルのやや複雑なもの、と考えたほうがいいのかなと思います。
ラーヌ
日本では「ラーヌ織り」という言葉があるようですね。その「ラーヌ」は、もともとはフィンランド語じゃないかと勝手に思っているのですが…真相はどうなのでしょう?
いずれにしてもその「raanu(ラーヌ)」、フィンランドで現在一般に使われている辞書(Kielitoimiston sanakirja)で見ると、
”タペストリーやカバーなどとして使われる、通常ウールの緯糸で模様を織り出している伝統織物”とあります。
もちろん時代が違うこともあるのでしょうが、著者はraanuをもっと狭義にとらえていました。
”壁やベッドやソファーにかけられた、あるいは床に置かれた大きな布を raanu と呼んでいるのを耳にします。でもそれらは十中八九間違いです。raanuとは、平織を地とした浮き織りの一種で…” (p.78)と、raanuの説明が続きます。
著者のいうraanuは多分こんな組織。この布の地は木綿糸での平織、カラーの浮き糸はウールです。
いくつかの種類のraanuのうち、たまたま手持ち中にあったこの写真のraanuはあまり典型的なraaunuではないかも。でも、これもraanuの一種で、vakoraanu(畝ラーヌ)と言われているものです。
このようなタイプの布を見かけることは現在ではほとんどありません。今のフィンランド人だったら、ラーヌといえば、日本語でいう、いわゆる「ラーヌ織り」で織られたタペストリーかなんかを連想するんじゃないかなあ…。
言葉の意味も解釈も、時代、あるいは地域が変われば、変化するのは自然なことなんでしょうね。それでもこの著者が現代の使われ方を知ったら、ちょっぴり嘆くかも??
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比較的長い間出版されていた本です。インターネットで見つけた中で一番新しかったのは、1954年出版の第9刷でした。
古本屋さんにも結構売りに出ているみたい。それだけ多くの人が持っていた本ということなのでしょう。
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